2016年9月のご挨拶

プログラミングと刑事ドラマ

(0)目次

 (1)はじめに
 (2)名探偵は君だ
   刑事ドラマの特徴
   刑事ドラマとプログラミングとの類似点
 (3)意外な犯人
   プログラミングで見落としがちな点と捜査の盲点との類似性
   想像力と判断力
   プログラミングと料理
   栃木小1女児殺害事件
 (4)刑事ドラマはゲーム
   刑事ドラマと実際の捜査や再現ドラマとの違い
   違うものの似ている点、似ているものの違う点
 (5)終わりにあたって 

(1)はじめに

コンピュータの『プログラム』を作ることがプログラミングです。
 プログラムは、基本ソフト(OS)と区別するため、『応用ソフト』(アプリケーションソフトウェア)とも呼ばれますが、ここでは、単に『プログラム』と呼びましょう。
 なお、実用的な規模では、複数個のプログラムが使われ、全体を『コンピュータ・システム』(あるいは単に『システム』)と称することは、ご存じの方も多いと思います。
 本欄では、システム開発を含めて、プログラミング、と呼んでいます。
 さて、私がプログラミングと出会ったのは、はるか、半世紀近く前の大学生の頃です。
 そのきっかけについては、『コンピュータ事始め(HP 25ミニ)』で触れています。
 以来、私とプログラミングの関係は、その濃淡こそありましたが、今に至るまで続いています。
 ここまで私を引きつけるプログラミングを刑事ドラマと対比して、考えてみました。
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(2)名探偵は君だ

刑事ドラマの特徴

「以前より、減ってきているようじゃが、テレビには、『刑事ドラマ』が多いのう」

 「たしかにね。
 主人公が普通の刑事さんではなくて、検事、検視官、鑑識、弁護士、監察官、新聞記者、一般人など、バリエーションが増えてはいると思うわ。
 なかには、超能力とか、霊感まて、登場しているもの」

「おう。ともちゃんかい。
 今年は、残暑が厳しいのう。
 刑事というと、昔は、無趣味な人の代表だったが、今は、グルメ、旅行などの趣味を持つ主人公が増えているな。
 さてと、プログラミングと刑事ドラマは、似ているというのが今回の主題じゃよ。
 ところで、ともちゃん、刑事ドラマには、どんな特徴があると思うかの?」

「そうね。
 ・ 『犯人捜し』がメインなので、多くの視聴者(老若男女)に分かりやすい
 ・ 主人公が原則として殺されず、最後に犯人が分かるという点がお約束なので、安心してみていられる
 ・ 主人公以外に、脇役に個性的な役柄や俳優を充てることで、魅力的なドラマにしやすい
 ・ 主人公に魅力的な俳優を起用できれば、高視聴率を得やすい、
 ・ 主人公を含めて人間関係を様々に設定できるので、ドラマに厚みや奥行きを出すことが可能、
 ・ 現代劇なので、ロケが比較的容易で、大道具・小道具も安価に調達できる、
 ・ 一話完結が多いので、途中の回から見た視聴者も楽しみやすい、
 ・ 視聴率が高くなれば、シリーズ化を図りやすい
 ・ 主人公以外の俳優は、適宜、入れ替えられるため、マンネリ化しにくい
 と、まあ、これぐらいはあるでしょう。
 赤字部分が特に刑事ドラマならではっての点ね」

「なんと、素晴らしい!
 
 ドラマの捜査会議や事務室のセットがテレビ局の会議室そのものじゃないのかい、と思うような場面もあるがの。
 ま、時代劇で電線や自動車道路が写ってしまうのとは違うから、セーフじゃろう。
 『刑事コロンボ』のように、犯人が(視聴者に)最初から分かる『倒叙物』を別にすれば、犯人捜し、がドラマの主題じゃな。
 も一つ言えば、ホームズの相棒は、ワトソン博士じゃが、刑事ドラマには、魅力的な相棒がたいていいる。
 『相棒』という名の人気シリーズもあるぐらいじゃからな。
 おお、それと、日本独自の『捕物帖』(捕物帳)もあるのう。
 これをテレビドラマにしようとすると、ロケや大道具・小道具など、時代劇ならではの費用もかかり大変じゃ。
 また、主な舞台となる江戸時代には、当然ながら、
 ・ 携帯電話はおろか電話はない、
 ・ 写真がない。似顔絵を登場させる場合は、絵師などの役を考えておく必要がある、
 ・ 徒歩や駕籠、馬などが移動手段であり、電車やバス等はない、
 ・ 時計も発達していない。昔の一刻は現在の約2時間にあたり時刻については、あいまいにならざるを得ない、
 ・ 人血か否かや血液型、指紋等の科学的鑑定ができない、
 ・ セリフに現代語、カタカナ語、アルファベットは、使えない、
 ・ 数字もアラビア数字は、だめ、
 など、ないないづくし、じゃ。
 脚本を作る側の精神的な負担も大きいじゃろう。
 従って、科学的な証拠を突き詰めて犯人を捜すというより、凶器や血痕、事情聴取、目撃証言などに頼らざるを得ない。
 このため、犯人が捕らえられると、簡単に白状してしまうケースが多い気がする。
 まあ、放映時間枠に収めないといけないという大人の事情があるからな。これは、現代物でも同じじゃな。
 現実の事件の容疑者のように、簡単に認めないとなると、大変じゃ。
 また、この他に、捕物帳は、若い人、特に子供さんには理解しにくい昔の道具や風習も登場するので、ここでは、刑事ドラマには入れないことにしよう」

「イギリスの『シャーロック・ホームズの冒険』(1892年~)などは、あちらの捕物帳と言えるでしょうけどね。
 もっとも、話は逆で、岡本綺堂さんが『半七捕物帳』(1916年)を書いたのは、ホームズ物に触発されたからでしょ」
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刑事ドラマとプログラミングとの類似点

「えーと、話を戻すと、刑事ドラマとプログラミングは、何が似ているの?」

「システムやプログラムには、明確な『目的』があるじゃろう。
 その『目的』、目標と言ってもよいが、それが、刑事ドラマの『犯人捜し』、と似ているのではないかと思う。
 すなわち、犯人や犯行の詳細は、ドラマでは、必ず、明らかになるのでな」

「相棒や脇役は、システム開発などの仕事仲間に相当するというのは、分かるけど、それ以外には、何が共通なの?」

「犯人を捜すためには、『捜査』が必要じゃろう。
 捜査には、関係者への事情聴取や証拠の採取、得られた証拠の鑑定も含まれる。
 一方、システムやプログラムの開発には、問題の分析を行うのにあたり、関係者との打ち合わせなどの情報収集やアルゴリズムの調査・開発が必要じゃ。
 また、考え出したアルゴリズムの検証も必要じゃろう。
 とすれば、
 捜査、鑑定→打ち合わせ、分析、アルゴリズムの調査・開発
 という対比があるのではないかと思う。
 更に言えば、ドラマでは、たいてい、捜査が(一時的に)間違った方向に進んだりする。
 これは、名探偵の見せ場を作るためもあるからじゃがな。
 

 一方、プログラムなどでは、テストにより、プログラムのミスが明らかになることが多い。
 これらのミスの修正=デバッグは、プログラミングには、ほぼ必須の作業じゃ。
 このように考えると、
 誤った捜査を正すこと→デバッグ、という対応も可能ではないかな」

「すると、『証拠』は、何にあたるのかしら?」

「そうじゃな。
 無理に対応づける必要もないが、システムの出力帳票や入力データのイメージがあるじゃろう。
 そういったイメージや台帳等が『証拠』にあたるのではないか」

「なるほどね。
 となると、『名探偵』は、システムやプログラムの作者ということね」

「ま、場合によっては、名探偵ならぬ探偵だったりすることもあるがの。
 それはさておき、
 刑事ドラマがお好きな方は、プログラミングにも興味を持つことができそうだということじゃ。
 今年(2016年)、文部科学省が義務教育におけるプログラミング教育に関する検討結果をまとめた。
 小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について、
 (http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/122/attach/1372525.htm)、

 特定のプログラミング言語を習得させるということではなく、プログラミングの考え方を学ばせたいということのようじゃ。
 具体的には、問題の分析や解決方法の論理的な考え方の構築がメインになるとのこと。
 なかなか難しいことじゃと思うが、子供向けの刑事ドラマには、『金田一少年の事件簿』、『名探偵コナン』などがあるので、参考になるかも知れんな」

「犯人を正しく見分けることよりも、犯人であるという根拠を第三者に論理的に説明する訓練に使えるかも知れないわね」

「それに面白いじゃろう。
 原理的には、刑事ドラマでなくて、推理小説でもよいが、学校などの限られた時間に収めるのは、難しい。
 30分~1時間程度のドラマであれば、視聴も容易で、録画してあれば、繰り返し見せることもできる。
 これらは、子供にとって(大人にとっても)重要な点じゃろう」

「えーと、ちょっと疑問だけど、刑事ドラマでなくても、いいんじゃない?」

「ものにもよると思うが、刑事ドラマは、
 
 事件(たいていは殺人事件)の発生⇒捜査⇒犯人の逮捕・犯行の解明、
 と、ま、一連の流れが、最初から、ほぼ、明らかじゃ。

 一方、システムやプログラム開発には、下図のような大きな流れがある。(2016/10/22 図を修正しました)
 
 これは、刑事ドラマの流れと本質的には同じことに注意して欲しい。
 なお、このとき、犯人なり犯行の解明は、一応は、『論理的』でないといけない。
 直感や霊感で、犯人が分かりました、的なことでは、まずいのじゃな。
 もっとも、ドラマでは、名探偵が重要な証拠や証言の矛盾に気がつくことは、よくあるがのう。
 なので、ドラマの進行は、かなり、ご都合主義じゃが、全体としては、『論理的』でないといけない。
 ここが、他のドラマとは、違うところじゃないかな」

「その『論理的』だけど、現実には、ありそうもないトリックも使われることがあるよね」

「そうじゃな。
 現実世界では、大人の死体を一人で抱えて遠くまで移動するのは、道具や車などの手段を必要とするじゃろう。
 ドラマでは、犯行現場と離れた死体発見場所に簡単に移動したような設定も見られるのは確かじゃ。
 だから、論理的といってもそういう暗黙の了解は、あるのう。これについては、(4)節で触れることにしよう」
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(3)意外な犯人

プログラミングで見落としがちな点と捜査の盲点との類似性

「前節に引き続いて、刑事ドラマとの対比で考えると、ドラマでは、意外な犯人というのがよく出てくる。
 簡単なプログラムでも、ループ処理の終了条件が正しくなかったり、異常値に対応できなかったりすると、正しい結果が戻らなかったり無限ループに陥ったりする。
 システム開発等にあたって、見落としがちな可能性も考えておく、という作業が大切じゃ」

「そうね。
 金利なんか、マイナスになることはないな、と思っていたら、今年初めに日銀のマイナス金利が発表されたりするもの。
 一方、ドラマでは、関係者の証言を言葉どおりに信じては、いけないのよね。
 たとえば、目撃者が『黒い帽子をかぶった・・』と話していても、
 実は、『黒い帽子をかぶった男の服装をした人・・』と考える必要がある。男装した女が犯人だったりするから」
 
「そうじゃな。
 しかし、科学的証拠は、ときに完全でも万能でもないことに心を留める必要がある。
 少し古い例では、ABO型の血液型に基づく親子鑑定で、A型の父親とO型の母親(またはその逆)からは、B型の子供は100%生まれない、と信じられていた時代があった。
 ところが、その後、まれではあるが、突然変異により、B型の子供が生まれることが分かった。
 それに比較すると、近年のDNA鑑定の技術は、進歩しているが、それでも使い方を誤ると、やはり、えん罪につながる可能性もある。
 DNA鑑定の物件が犯人の物でない可能性もあるのでな。
 記憶に新しいところでは、『栃木小1女児殺人事件』(2005年12月)では、DNA鑑定の鑑定対象物が捜査関係者の物であったことが相当年月が経ってから分かった。
 この間に、容疑者の車は、廃棄され、犯行現場も特定されなかったが、その後、容疑者が別件で逮捕された。
 そして、Nシステムの記録、被害者の飼い猫と同じ種類の猫の毛が容疑者宅から検出されたこと、捜査段階での自供等により、第1審で有罪判決が下された。
 なかでも、自供は、容疑者が裁判では否認したものの、捜査段階での自供に至る様子を録画したビデオが法廷で再生され、裁判官及び裁判員の心証を左右したと思われる。
 一方、証拠は、すべて状況証拠に過ぎないとも言えるので、えん罪の可能性も指摘されている。 (注)
 『石橋をたたいて渡る』という諺の要点は、
 どの程度『たたく』だけでなく、『石橋』が本当に石の橋なのかどうかというところも考えることじゃ、すなわち、常に前提を疑うことが大切じゃ。
 同様に、システム開発のための関係者の打ち合わせでも、お互いに違った思い込みがあると、そこが盲点になる。
 また、マニュアルに載っていない例外的な処理が現場で行われていても、事務方が知らない場合もある。
 このように、関係者が意図的に隠さなくても、限られた人たちとの打ち合わせだけでシステム等を作成すると、望ましい物ができない可能性がある」

「限られた開発期間という制約もあるでしょうけどね。
 ドラマでも、しばしば、間違った証言や鑑定によって、真犯人以外の人が容疑者とされたりするのと一緒ね」
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想像力と判断力

「プログラミングは、世間では、理数系の仕事と思われることが多いようじゃが、実際は、言葉を理解する能力が要求されるのじゃな。
 もう少し言えば、それに加えて、豊かな『想像力』が必要じゃろう」

「というと、結構、女性に向いているかもね。
 細かいところに気がつくし」
 
「色や形や関係者の表情、口調の違いなどには、女性の方が敏感かもしれん。
 もっとも、想像力の豊かさと冷静な判断力とは、一人が兼ね備えるのは難しい面もある。
 比べれば、男には、おおざっぱな人も多い。まわりの話をよく聞かない人もいる。
 依頼者も、『あとは適当によろしく』では、正確に動作するプログラムを作ることが難しいということは、理解して欲しいものじゃ」

「そういったことを、小中学生などに教えるのは、どうしたらいいのかしらね?」

「工作などで、こんな物を作れ、という課題を紙に書いて、クラスの班ごとに与える。
 その際、生徒に渡す仕様を、わざと大まかなものにしておくというのは、どうじゃろう?」

「それでも、なんとか作っちゃったら?」

「あらかじめ作っておいた完成見本(異なった複数のもの)を先生が見せればよいじゃろう。
 また、作る途中で質問が出れば、質問の出た班にのみ答えるとかかな」
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プログラミングと料理

「大人向けには、『料理』でもいいかもね。
 子供は、包丁で手を切ったり、お湯でやけどしたら危ないので難しいけど。
 そういえば、2016年前期のNHK 朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で、ホットケーキの作り方を取り上げた回に似た例が出てきていたわね」

「なるほどな。
 まさに、『料理』の調理は、プログラムじゃ。
 

 材料をレシピと調理人で処理すると料理が完成する。
 入力は、材料で、できた料理は、出力じゃ。
 レシピと調理人がプログラムじゃが、レシピが簡単すぎたり調理人のレベルと合わなかったりすると、料理の内容や質も大きく変わってしまう。
 コース料理など、本当にシステムと言えるのう」
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栃木小1女児殺害事件(注)

栃木小一女児殺人事件の第2審 2018/1/11追記
 殺害場所と時間について検察側が高裁に訴因変更の請求
 2018年1月11日付けの朝日新聞の記事では、その請求概要は、次の通り。
 『東京高裁で争われている控訴審において、1月10日、東京高検が殺害場所と時間の一部変更請求を東京高裁に求めたことが分かった。
 殺害現場:遺体発見場所に近い茨城県内の林道 ⇒ 栃木県または茨城県内とその周辺に拡大、
 殺害時刻:2005年(平成17年)12月2日午前4時ごろ ⇒ 12月1日午後2時38分~12月2日午前4時ごろまでに拡大、
 東京高検は、殺害場所及び時間について、上記のように、1審の時より広げないと、立証が困難と判断した模様。
 弁護側は、第2審での検察側の訴因変更請求には驚いた、としている。』
 
 第2審判決 2018/8/14追記
 2018/8/3に上記の控訴審の判決が下された。
 2審の東京高等裁判所の藤井敏明裁判長は、1審の宇都宮地裁の判決を破棄し、あらためて、被告の無期懲役を言い渡した。
 原判決を破棄する理由として、「自白に基づいて殺害の日時・場所を認定した1審には事実誤認がある」とした。
 1/11の注意書きにある検察側が行った訴因変更を求めたのは、裁判所であることが明らかになった。
 一方、1審の審理で検察側が提出した取り調べ映像が7時間以上にわたって再生されたことを批判し、「供述の信用性を判断する補助証拠として採用した取り調べ録画で犯罪事実を直接認定したのは違法」とした。
 以下は、私見です。
 1審において、検察側が録画映像を長時間、再生したのは、被告が自由意志に基づき自白したということを裁判官並びに裁判員に伝えるためであったと思われる。
 つまり、自白の信用性が揺らぐと間接的な証拠だけでは、有罪にできないと考えたからであろう。
 起訴当時、もし、東京ならば、この程度の証拠での起訴は、無理なのではないかという観測もあったぐらい、証拠の乏しい事件であったからだ。
 しかるに、2審判決では、自白した事実と間接的な証拠(Nシステムの走行記録、手紙、猫の毛など)で、被告の犯行であることが確実と認定した。
 特に、逮捕後に被告が母親に送った手紙の文面から、被告の犯行であるとしたのは、やや奇異に思われる。
 手紙には、犯行について、何ら具体的な内容がなく、心配をかけて申し訳ないと伝えているだけのようにも受け取れるからである。
 また、被害者に付着していた猫の毛について、被告が以前に飼っていた猫と同一種類の毛である、というあいまいな証拠(これを積極的に証拠と呼べるかどうか)については、被告が犯人であるという事実と矛盾しないで済ませてしまった。
 2審判決後の報道では、録画映像の扱いに関する判決文が詳細であったために、その件が中心となり、被告が有罪か無罪かという肝心の点がかすんだように感じられた。

最高裁判決
 NHKニュース(2020年3月6日)付の報じるところでは、被告の上告が退けられ、無期懲役が確定しました。
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(4)刑事ドラマはゲーム

刑事ドラマと実際の捜査や再現ドラマとの違い

「ある民放の番組で、元刑事の方々が話しているのを聞いていると、刑事ドラマと実際との違いについて、面白いことを言っていたな。
 ドラマでは、殺人現場に大勢の刑事などがどかどかと入り込んで、死体を見たり、まわりで、話をしたりするが、実際は、捜査一課長などの主だった人しか入れないらしい」

「ああ、あたしもその番組をみたわ。
 最初は、鑑識中心で、一般の刑事が殺人現場に足を踏み入れられるのは、1週間後ぐらいだって。
 あと、足や頭にビニールを履いたり、頭に被ったりして現場に入るのね」

「そうじゃったな。
 DNA鑑定なども鑑定技術も進歩しているから、(3)節に書いたように、外から余分な物を持ち込まれると、捜査が混乱する。
 こういった指摘を受けてからかもしれんが、最近のドラマでは、足にビニールを履いている場面が増えているように思われるのう。
 ただ、テレビ映りの関係じゃろうが、頭には、被っていないケースもあるな」

「たしかに。
 せっかく、きれいな女優さんが出演しているのに、終始、頭にビニールを被ってテレビに出てんじゃ、台無し感は、あるものね。
 ま、視聴者も、ドラマと現実は、違うことは、分かった上で、楽しんでいるので、あまり、現実に近づけすぎると、怖い面もあるわよ」

「わしも、殺人現場に血が飛び散っているシーンなど、見たくないのう。
 つまり、わしら、視聴者が見たいのは、実際の殺人事件ではなくて、犯人捜し、だったり、証拠の鑑定だったり、事件関係者の証言だったり、捜査会議シーンだったり、なのじゃな」

「そうね。
 あと、捜査関係者の人間関係もね。
 そういうところは、再現ドラマとは、視点が違うわ」

「再現ドラマは、実際の事件の『要点』をできる限り、忠実に再現しようとする。
 一方、刑事ドラマでは、実際の事件をモチーフ(=動機)にしているだけだと思うのじゃ。
 従って、捜査方法や証拠の鑑定なども含めて、仮想的というか架空じゃ」

「一言で言えば、刑事ドラマは、『ゲーム』の世界ね。
 現実世界と似ていてもね」
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違うものの似ている点、似ているものの違う点

「よ、その通り。
 ドラマに必要な部分を、現実世界から取り込んで、場合によって、誇張したり、省略したりしているのじゃな。
 システム開発やプログラミングも同様じゃ。
 現実世界をそのままコンピュータの世界に写す必要は無いし、むしろ、有害なことも多い」

「つまり、モデル化するということね」

「そうだな。
 むかし、型式管理というものをシステム化したとき、『型式確認在庫表』という出力帳票を作ったら、大切な契約を在庫と呼ぶのは、けしからんと当時の部長に怒られてしまった。
 型式確認日(契約日)と有効期間(品目毎に年数が違う)がまちまちなので、期限切れとなる失効日もまた、レコード毎に異なってしまう。
 そこで、有効な型式確認を有効在庫、失効したものを無効在庫と呼んで、期限管理などを行うための帳票の一つじゃったがな。
 ま、入りたてだったわしは、K課長さんの助言で、『型式確認一覧表』に名前をあらためた、という思い出がある。
 システムを作る際には、関係者の愛着や執念のような非論理的、かつ、第3者に理解しがたいものもあり得ることは、覚えておきたいのう」

「心理的な壁ね。
 マイナンバーカードが日本では、なかなか実施できなかったのも、個人に番号をつけるのは、けしからん、みたいな抵抗もあった」

「コンピュータの世界では、(コンピュータの世界でなくてもじゃが)、何かのオブジェクトに番号をつけて整理するのは、当たり前のことじゃからな。
 それができないと、人口を数えることさえできないじゃろう」

「猫を1匹、2匹と勘定する時、猫に(頭の中だけでも)名前をつけて、勘定しているのだからね」
「三毛猫太郎、三毛猫次郎、三毛猫三郎でもよいが、多くなれば、重複しないように命名するのは、難しい。
 人の場合も同様じゃ。有り体に言えば、人の姓名など、仮のものと気がついて欲しいのう。
 『○畑一郎』さんに固有の番号を割り当てるのは、個性を無視しているのではなくて、個性を尊重しているのじゃ。
 ○畑一郎、という名前の人は、他にもいるかも知れないが、今目の前にいる、○畑一郎さんは、他の人とは異なる○畑一郎さんじゃということを認めて初めて番号を振れるのじゃからな。
 ここで、一言。
 違う物の似ている点を見いだすのがプログラミングのコツではないか。
 もっとも、似ている物の違う部分を見いだすことも、科学一般の特徴じゃがな」

「そうね。
 その二つは、科学では、互いに『相補的』と言えると思うわ」
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終わりにあたって

  今回もご覧いただきありがとうございました。
    すでに、秋に入ったとは言え、日中は、暑さが厳しい毎日です。
    どうぞ、皆様、ご自愛くださいますようお願い申し上げます。
    では、次回も、本欄で元気にお会いできますことを願っています。
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 更新日 2016/11/1
一部追記 2018/1/11
目次と一部追記 2018/8/14~8/15
栃木小一殺人事件の最高裁判決を追記 2020/3/6

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