会員の皆様へ(2014年2月のご挨拶)

道中双六の問題(続)

目次

 新しい図表示
 過渡現象
 宿場数(s)が一般の場合
 偏微分方程式で近似
 Excelでの数値計算結果(2014/2/4、2/5追記)
 終わりにあたって

新しい図表示

「前月の問題の続きね。
それはそうと、おじさん、体調大丈夫なの」


「ともちゃんか、いや、心配を掛けたのう。
 大勢のみなさまにも、大変なお力添えをいただいた。厚く感謝申し上げます。
 なかなか、元のようには復調はしないがの。
 当面は、ぼつぼつと、進めていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
 さて、2014年1月のご挨拶で、「道中双六の問題」を取り上げた。
 そこでは、主として、ともちゃんが書いてくれた、図表示に基づいて書き進めた」

「宿場数が1の場合は、こんな感じだったわね。


 そもそも、「道中双六の問題」は、 いわゆる、絵双六で、駒を振り出しから進めるんだけど、
1.駒は、振り出しから、必ず、1番目の宿場に進める。
2.駒は、各宿場で、確率Pで、次の宿場に進み、確率(1-P)で1つ戻るものとする。
3.駒が最後の宿場から上がりに進んだときは、双六上から消える。
4.駒どおしの関係は、無いものとする。
5.振り出しから、1番目の宿場まで、及び、各宿場間、並びに、最後の宿場と上がりまでの所要時間は、同一とし、1日と勘定する。
 というようルールで行うと仮定したゲームで、平均何日で上がれるかを計算したいという問題ね。
 それで、分かりやすいように、前回は、上の図表示を使ったの。
 縦線が、振り出しから上がりまでを示していて、数字は、0が振り出し、上がりは s+1、(宿場数を s)。
 また、3種類の矢印の黒は、確率1での推移、赤は、確率P、青は、確率(1-P)での推移をそれぞれ表す」

「1月は、床についていることが多かったので、いろいろと頭の中で考えてみたのじゃが、もう少し、分かりやすい図を思いついたというわけじゃ。
 
 それが、上に示したような図じゃ」

「横線が、時間(振り出し、上がりを含めて、宿場間の移動に要する時間を1)で、縦軸が位置(振り出しが0、上がりがs+1)を示すという事ね。
なるほど、これだと、宿場数が一般の場合にも、煩雑にならずに構造を示せそうね」

「そうじゃろう。
 次節では、一般の場合に入る前に、すこし、違った角度からこの問題を眺めてみようかの」
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過渡現象

「以下では、Pがゼロではない場合をもっぱら考えよう。
そうすると、宿場数sが、いくつであっても、時間が相当程度経過した後では、すべての駒は、上がりに到達して、盤上から、いなくなってしまう」

「それは、そうね。
 駒の代わりに振り出しから一定時間のみ光が放射されたとして、宿場を半透明な膜と考えて透過・反射時の損失がなく、また、振り出しは、反射率が1で、上がりは、反射率がゼロであるとすれば、時間が経過した後は、すべての光は、上がりに吸収されてしまうとすれば分かりやすいかしら」

「そうじゃな。
 盤上の駒の数が保存されず、すべて上がりに、吸収されてしまうので、考えている状態は、定常状態ではない。
 その意味で、この道中双六の問題は、「過渡現象」を扱っていると考えられる」

「過渡現象と言えば、電気回路などの問題が思い浮かぶわね。
 s=1で考えると、


 上の図のように、フィードバックがある回路になる。
 演算子法に従うと、このような回路のフィルターは、像空間で、変数を、s(ここでは宿場数ではない)で示すと、
 exp(-s)×p×exp(-s)/(1-exp(-s)×(1-p)exp(-s))、となる。
 これは、p×exp(-2s)/(1-(1-p)exp(-2s))
=pe^(-2s) + pe^(-4s)(1-p) + pe^(-6s)(p-1)^2 + pe^(-8s)(1-p)^3 + pe^(-10s)(p-1)^4 + e^(-12s)(1-p)^5・・、
となるので、原空間では、入力信号をf(t)とするとき、出力信号は、
 p×f(t-2)+p(1-p)×f(t-4)+p(1-p)^2×f(t-6)+p(1-p)^3×f(t-8)+p(1-p)^4×f(t-10)+p(1-p)^5×f(t-10)・・、
と遅延することがわかる」

「各係数を見ると、t=2m+2として、p(1-p)^m、ここで、m=0~の整数となっている。
 これは、前回に求めた、2m+2回で、上がれる確率と等しい」

「ついでに、宿場数が2の場合の伝達関数はと言うと、前回の記事を参考にして、
原空間では、p^2(1-p^2)f(t-3)+p^2(1-p^2)f(t-5)+p^2(1-p^2)f(t-7)+・・、となるように考えると、
伝達関数は、p^2(1-p^2)exp(-3s)/(1-(1-p^2)exp(-2s))でなければならない」

「確かにな。
 図で表すと、

となる。
 これは、近似的ではあるが、

と置き換えて考えることも可能じゃろう」
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宿場数(s)が一般の場合

「さて、いよいよ、宿場数が1以上の一般の場合を考える。
このとき、前々節に記載した図が役に立つ。
 
 上の図は、一般のs(宿場数)の場合じゃ。
 ここで、時間をtで、振り出しから上がりまでをj(0~s+1)で表す。
 このとき、各交点の確率をf(j,t)とするとき、以下の式が成り立つ。
 (1)f(0,0)=1
 (2)t<j → f(j,t)=0
 (3)j>s+1 → f(j,t)=0
 (3)f(0,t)=(1-p)×f(1,t-1)
 (4)f(1,t)=f(0,t-1)
 (5)j<s → f(j,t)=(1-p)×f(j+1,t-1)+p×f(j-1,t-1)
 (6)上記以外は、f(j,t)=p×f(j-1,t-1)」

「じゃ、早速、DERIVEで定義してみるよ。





 結構、面倒だったけど、上の図のようになった。

 試しに、s=1,2,3,4,5の場合の、f(s+1,s+2m-1)をm=1~10まで計算してみた。

s=1の場合、
([p, p(1 - p), p(p - 1)^2, p(1 - p)^3, p(p - 1)^4, p(1 - p)^5, p(p - 1)^6, p(1 - p)^7, p(p - 1)^8, p(1 - p)^9])

s=2の場合、
([p^2, p^2(p + 1)(1 - p), p^2(p + 1)^2(p - 1)^2, p^2(p + 1)^3(1 - p)^3, p^2(p + 1)^4(p - 1)^4, p^2(p + 1)^5(1 - p)^5, p^2(p + 1)^6(p - 1)^6, p^2(p + 1)^7(1 - p)^7, p^2(p + 1)^8(p - 1)^8, p^2(p + 1)^9(1 - p)^9])

s=3の場合
([p^3, p^3(1 - p)(2p + 1), p^3(p - 1)^2(4p^2 + 3p + 1), p^3(1 - p)^3(2p + 1)(4p^2 + 2p + 1), p^3(p - 1)^4(16p^4 + 20p^3 + 13p^2 + 5p + 1), p^3(1 - p)^5(2p + 1)(4p^2 + p + 1)(4p^2 + 3p + 1), p^3(p - 1)^6(64p^6 + 112p^5 + 104p^4 + 63p^3 + 26p^2 + 7p + 1), p^3(1 - p)^7(2p + 1)(4p^2 + 2p + 1)(16p^4 + 16p^3 + 10p^2 + 4p + 1), p^3(p - 1)^8(4p^2 + 3p + 1)(64p^6 + 96p^5 + 84p^4 + 51p^3 + 21p^2 + 6p + 1), p^3(1 - p)^9(2p + 1)(16p^4 + 12p^3 + 9p^2 + 3p + 1)(16p^4 + 20p^3 + 13p^2 + 5p + 1)])

s=4の場合、
([p^4, p^4(1 - p)(3p + 1), p^4(p - 1)^2(8p^2 + 4p + 1), p^4(1 - p)^3(3p + 1)(7p^2 + 2p + 1), p^4(p - 1)^4(55p^4 + 40p^3 + 19p^2 + 6p + 1), p^4(1 - p)^5(3p + 1)(6p^2 + 1)(8p^2 + 4p + 1), p^4(p - 1)^6(377p^6 + 354p^5 + 219p^4 + 100p^3 + 34p^2 + 8p + 1), p^4(1 - p)^7(3p + 1)(7p^2 + 2p + 1)(47p^4 + 20p^3 + 10p^2 + 4p + 1), p^4(p - 1)^8(8p^2 + 4p + 1)(323p^6 + 210p^5 + 132p^4 + 64p^3 + 21p^2 + 6p + 1), p^4(1 - p)^9(3p + 1)(41p^4 + 8p^3 + 9p^2 + 2p + 1)(55p^4 + 40p^3 + 19p^2 + 6p + 1)])

s=5の場合
([p^5, p^5(1 - p)(4p + 1), p^5(p - 1)^2(13p^2 + 5p + 1), p^5(1 - p)^3(40p^3 + 19p^2 + 6p + 1), p^5(p - 1)^4(121p^4 + 66p^3 + 26p^2 + 7p + 1), p^5(1 - p)^5(364p^5 + 221p^4 + 100p^3 + 34p^2 + 8p + 1), p^5(p - 1)^6(1093p^6 + 727p^5 + 364p^4 + 143p^3 + 43p^2 + 9p + 1), p^5(1 - p)^7(3280p^7 + 2367p^6 + 1286p^5 + 560p^4 + 196p^3 + 53p^2 + 10p + 1), p^5(p - 1)^8(9841p^8 + 7652p^7 + 4459p^6 + 2105p^5 + 820p^4 + 260p^3 + 64p^2 + 11p + 1), p^5(1 - p)^9(29524p^9 + 24601p^8 + 15256p^7 + 7705p^6 + 3260p^5 + 1156p^4 + 336p^3 + 76p^2 + 12p + 1)])

となるんだけど、例によって、再帰呼び出し関数は、計算に時間がかかるわね」

「二重の再帰関数じゃからな。
 DERIVE de ドライブで触れたように、ベクトルを使えば、計算速度は上げられるがの。
 今回は、取り上げないことにしよう」

「s=1と2は、規則的なんだけど、s=3から、式が難しくなっちゃう。
 そこで、s=1から4までの、確率密度の近似和をグラフにしてみた。
 和は、t=s+1~s+2m-1、(m=1~10)の範囲で計算している。
 
 横軸は、確率 p。こんな感じ」

「予想どおりじゃが、s(宿場数)が増えると、p<1では、なかなか上がりにくくなることが分かるのう」

「でも、五十三次のs=53は、ほど遠いわ」

「一番よいのは、この確率密度関数の母関数が分かれば、上がる日数の平均値の計算はできるが、ちょっと、今は分からない」
「s=53は、大きいので、差分を微分で近似したらどうかしら?」

「そう、それが、現実的な考えじゃ」
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偏微分方程式で近似

「時間をtで、位置をxで表すことにしよう。
 基本となるのは、f(x,t)=(1-p)×f(x+1,t-1)+p×f(x-1,t-1)じゃな」

「変数の範囲は、t=0~∞、x=0~s+1、となるわね。
 上式で、tをt+1に替えて、f(x,t+1)=(1-p)×f(x+1,t)+p×f(x-1,t)、
 1を微少量と考えて、
 左辺は、f(x,t)+∂(f,t,1)+(1/2)∂(f,t,2)+・・、
 また、右辺の第1項は、(1-p)(f(x,t)+∂(f,x,1)+(1/2)∂(f,x,2)+・・)、
 同様に第2項は、p(f(x,t)-∂(f,x,1)+(1/2)∂(f,x,2)+・・)、
 となるので、
 (1-2p)∂(f,x,1)-∂(f,t,1)+(1/2)(∂(f,x,2)-∂(f,t,2))≒0
 ここで、∂(f,x,2)などは、f(x,t)をxで2回偏微分していることを表す」

「まあ、そういうことかな。
 fのtに関する変化率が小さいとすれば、更に、
 (1-2p)∂(f,x,1)-∂(f,t,1)+(1/2)∂(f,x,2)≒0
 移項して、
 ∂(f,t,1)≒(1-2p)∂(f,x,1)+(1/2)∂(f,x,2)
 初期条件、境界条件は、難しいが、大まかに、f(x,x)=p^x、
 f(x,0)≒δ(x) 、ここで、δ(x)は、ディラックのデルタ関数。
 f(x,x)=p^x、ただし、x<s+1
 f(x,t=∞)→0 などとなると思う。
 今回は、時間切れじゃったな」

「でも、sが一般の場合の解決の糸口が見えてきたわ」

※青字の式が誤っていましたので、2014/2/3に修正しました。
※取り消し線部分は、2014/2/7に修正しました。
※1次元の熱伝導、拡散方程式等との対比を念頭に差分の近似式を2014/2/15にあらためました。
 これにより、p≒1の場合は、∂(f,t,1)≒-∂(f,x,1)、ですが、これは、g(x)=f(x,0)と置いたときに、f(x,t)=g(x-t)が近似解となることを示します。
 これは、t=0のときのg(x)が速度1で進行することを意味します。
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Excelでの数値計算結果(2014/2/4、2/5追記)

「Excelで、道中双六の数値計算をやってみたよ。
 宿場数が、s=5とs=53の場合を、第1節の表を作る方法で計算し、振り出しから上がりまでの平均日数を計算したところ、下の表のようになった。
 ただし、下の表では、平均上がり日数を最短日数で除したものを載せている。
 例えば、s=5、p=0.2では、倍率568.7は、実日数では、約3412日を6で割ったものなの」

S=5 S=53 S=5 S=53
P 平均日数/最短日数 LOG10(平均日数/最短日数)
0.1
0.2 568.7 2.754883228
0.3 67.67 1.830396176
0.4 15.78 1.198106999
0.5 6 53.56 0.77815125 1.728840568
0.6 3.18 4.77 0.50242712 0.678518379
0.7 2.065 2.45 0.314920056 0.389166084
0.8 1.519 1.65 0.181557774 0.217483944
0.9 1.203 1.24 0.080265627 0.093421685
1 1 1 0 0


「これは、労作じゃな。
 いや、珍重、珍重。
 どれどれ、s=53が、いわゆる五十三次の場合じゃな。
 確率の和も検証してみたのかの」

「ΣPが0.98以上の場合のみ、表にしてあります。
 だから、s=5で、p=0.1では、約16000個の和をとっても、ΣPが0.1程度にしかならないため、表に載せていないのね。
 同じように、s=53では、p=0.5で、ΣP≒0.998・・、であるんだけど、p=0.4では、4×10^-7程度にしかならないから、カット」

 「グラフがこれかの。
 
 p=1/2の場合は、平均上がり日数が、s=5で、最短日数(s+1=6)の6倍、s=53で、53.5倍と、それぞれ、概ね s+1倍になっている。
 前回の記事で厳密に計算した結果でも、p=1/2の場合は、s=1で、2倍、s=2で、3倍、と同一の傾向じゃ。
 これらから推測すると、特に、p=1/2の場合、sの如何に関わらず、平均上がり日数は、最短日数の約s+1倍であると言えるのではないか?」
「前節の偏微分方程式も、p=1/2では、簡単になるので、そのあたりにも何か秘密がありそうね」

「物理的な描像としては、宿場数sの場合、振り出しから上がりまでの間に、s+1個の小部屋があるが、時間がs日経過後、p=1/2の時は、ほぼ、すべての小部屋に均等に入っていると考えられるのではないか。
 一方、p=1の場合は、短時間に一度に出発した場合を考えてみれば分かるように、どれか1つの小部屋にしか存在しないので、1日ごとに一団となって一つ先の小部屋に進む。
 最後の小部屋、これは、s個目の宿場と上がりとの間じゃが、ここに入ると、pの如何に関わらず、次は、上がることになる。
 p=1の場合は、それは、s+1日後に一斉に起こり、これが最短時間じゃが、p=1/2のときは、駒がs+1個の小部屋に分散しているため、1日毎に上がる駒数は、1/(s+1)となる。
 従って、平均上がり日数/最短日数は、この逆数となり、s+1倍になるという景色が思い浮かぶのう」

「なるほどね。
 簡単に言えば、駒の平均の速さが、p=1/2のときは、p=1の時の速さの 1/(s+1)になるということか。
 ま、感覚的には、分かる気がするけど」


※青字部分は、2014/2/5に追記しました。
※青字色の部分の取り消し線は、2014/2/6に施しました。
 なぜならば、p=1/2で、s=53の場合のExcelでの数値計算結果を再確認したところ、t=s+1=54における、f(x,54)は、x=0~54の間で、均一とは言えず、xが0に近いほど、f(x,54)が1に近くなっており、0=< x <=25の範囲のf(x,54)の和は、0.99を超えていました。
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終わりにあたって

 今回もご覧いただき、ありがとうございました。
 本年、2014年4月9日に、いよいよ、Windows XPとOffice 2003 に対するマイクロソフト社のサポートが終了を迎えます。
 それまでに3ヶ月となったわけです。Office 2002までのサポートは、すでに終了しています。
 サポート終了後、インターネットに接続して利用するパソコンでは、セキュリティが厳しい状態になります。
 Windows 7、または、Windows 8、Windows 8.1 搭載のパソコンに買い換えましょう。もはや、考えている時間は、ありません。
 特に、Windows 7のプリインストールパソコンは、量販店では、既に販売されておりませんので、通販サイト等を利用する必要があります。年度末が近づくとこれらは、品薄となり得ますので、早めに対処する必要があるでしょう。(参考URL:http://www.nikkeibp.co.jp/xp2014/)
 なお、当教室でも、Office2003関係コースの新規受講受付を2013/12末で終了いたしました。
ご了承下さいますようお願い申し上げます。
  では、次回も、また、本欄で元気にお会いできますことを願っています。
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作成 2014/2/1、目次を追加 2019/5/5

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