会員の皆様へ(2010年6月のご挨拶)

ミロク・プロジェクト

目次

 電信柱
 消えていく情報
 タイムカプセル
 月に埋めるのは?
 人工衛星に託す?
 レスキューセットとしてのタイムカプセル(2010/6/2~6/4 加筆)
 博物館の役割(2010/6/3~6/4 加筆)
 レスキュータイムカプセル作成委員会(2010/6/3 加筆)
 ミロク・プロジェクト(2010/6/3~6/4 加筆)
 終わりにあたって

電信柱

死語って何かしら?」と今日子は、言った。
 「死んでいる言葉、使われなくなった言葉。死者と同じさ。いずれ、誰も思い出せなくなる」と明は、答えた。

 「ちょっと、ちょっと、何なの、このセリフ。鳥肌が立っちゃうじゃない!」

 

 「あはは。ともちゃんか。死語ってどんな言葉を指すのかをインターネットの検索で調べたいという人がおってな。
そのときは、ある言葉が「死語」であるかないかを見分ける確固とした基準は、無いので、というような話をしたんじゃがな」

 「まあ、確かに、そうね。年代や生い立ちなどで、人によってもずいぶんと違ってくるでしょう」

 「うん。そうじゃな。たとえば、上の「電信柱」じゃ。
 ともちゃんは、分かるかな?」

 「電柱のことでしょ。でも、電信柱って、呼ぶ人は、年配の人でしょう。
 あたしたちは、「電柱」て、言っているわね」

 「そうじゃな。「電信柱」や「赤電話」など、そろそろ、死語になりつつある言葉じゃろう。
 実際、「死語辞典」などのキーワードで検索すると、すでに、先人達が、死語とおぼしき言葉のページを作っているようじゃ」
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消えていく情報

「たとえば、清少納言の書いた枕草子で、「ものがたりは・・」というような段がある。
 ものがたりの名前だけは、載っていても、全文が後世に伝わったものは、少ない」


 「そうね。往事の言葉だって、何を意味しているかが、分からなくなってしまったものもあるわ」

 「まさに本当の死語じゃな。
 ホームページでも、日々、更新されて、内容が変わってしまう。
 検索で調べた結果も、いずれは、消えていく運命にある」

 「確かにね。Googleなどで、検索しても、見つからないページがあるものね」

 「Googleには、キャッシュという機能があって、過去にGoogleがインデックスを作成した内容(の一部のこともある)が残っていることもある」

 「でも、いつかは、Googleのコンピュータからも消えてしまうのかしら」

 「そうじゃろうな。
 そうやって考えると、ホームページに限らないのじゃが、未来の人たちに残すべき情報を、誰が、どのような手段で保存するかという話になる」

 「前に「私撰ページ」で取り上げた「Internet Archhive」(http://www.archive.org/)は、どうなのかしら?」

 「今確認したところでは、だいぶ以前と内容が変わっているようじゃな。しかし、一つの試みではあると思う」

 「著作権などとの関係もあるわね」

  「そうじゃ。
 それに簡単に保存すると言うが、膨大な分量がある。
 いくらハードディスクの容量や単価が下がっても、画像や動画などとなると、コストがかかるじゃろう」

 「更新された部分のみを保存していく。つまり、「差分」を残していけば、だいぶ、データ量は、減らせるでしょう」

 「まあ、そうじゃな。文字情報は、圧縮がかなり利くからな。
 それは、現代版「ノアの方舟」とでも、言うべきものかもしれん」

 「聖書に出てくる話ね」

 「ずっと昔に「ノアの方舟」が発見された、という話を聞いたことがあったが、本当だったのかな」

 「検索すると、まあ、ジパング伝説みたいなものなのかなあと思えるわ」

 「なんらかの、災害の記憶とか言い伝えのようなものが、背景にあったのかとは思うがの」
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タイムカプセル

タイムカプセルという言葉自体が、死語みたいね」


 「ま、若い人たちには、そうかもしれんな。
 わしなどが子供の頃は、学校の卒業などを記念して、校庭に文集、写真などを容器に入れて埋めたもんじゃがな」

 「今、どうなったのかしらね」
 「たいていは、掘り出されずに、忘れられてしまったじゃろう。
 また、せっかく掘り出しても、湿気で紙や写真は、判読不能となっていたということもあったような気がするのう」

 「意外と後々まで、残そうとするのは、難しいわね」

 「エジプトのピラミッドやモヘンジョダロの遺跡に残された文字は、何千年も残ったというのにな。
 現代のFDやCD、DVDなどは、保っても、せいぜい、数十年といったところじゃろう」

 「でも、まさか、石に彫ることはできないわね」

 「まあな。
 それと読み取り装置のことがある。たとえば、ビデオテープなどの読み取り装置もなくなりつつある。
 FDは、今売られているほとんどのパソコンに付属しなくなってきてるじゃろう」

 「最近、富士フイルムがFDの製造を取りやめるという記事があったわ」

 「現代では、機器の進歩のスピードが上がっているので、機械は、どんどん、陳腐化してしまう。
 陳腐化した機械でしか、読み取れないデータは、まさに、死んでいるデータとなってしまうのう」

 「う~ん。
 なるほど。ただ保存するだけでなくて、未来で、使われていない媒体やフォーマットでは、難しいものね」

 「非常に堅い物質に微細な文字を刻印するような方法でないと、数千年超の未来に情報を伝えることが難しいかもしれん」

 「あと、どこに埋める、というか、置いておくのかという問題もあるわね」

 「お、そうじゃな。
 災害や地震、火山の噴火、海水の浸食など、まさに、その点は、重要なポイントじゃ」

 「一つだけでなく、コピーをたくさん、あちこちに保存しておくのはどうかしら」

 「それも大事じゃな。
 ただ、あまり多くの場所だと、管理コストがかかるじゃろう。
 SF小説の古典として知られている「ファウンデーション」(アイザック・アシモフ著:岡部宏之訳:ハヤカワ文庫:1984年)は、銀河帝国の興亡を描いたものじゃが、この中に百科事典を作成する団体というのが出てくるの」

 「数万年、数十万年の未来なんて、ちょっと、想像できないわ」

 「しかし、一番最近の氷河期は、約1万年程度前とされている。
 地球温暖化を考えると、この先の変動は、予想できないが、いずれにしても、人類の数が激減することもあることを考えておく必要は、あるじゃろう。
 そのときに人類の保つ知識や技術が失われると思うのう」

 「でも、人口が減ると簡単に記憶が消えてしまうのかしらね?」

 「人間の大人としての時間は、たかだか、50年程度じゃ。
 何世代かを経れば、先人の得た知識も容易に失われてしまうと考えるのが正しいのではないか。
 また、知識は残っても、肝心の工作技術や工作機械が失われると、同様なことが起こるじゃろう。
 とはいっても、いきなり、石器時代に戻ることは、ないじゃろうが、たとえば、電気に関する知識や技術が失われれば、容易に18~19世紀の昔に逆戻りしてしまう」
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月に埋めるのは?

「いっそ、月に埋めたらいいんじゃない?」


 「そう考える人もおるじゃろう。
 月には、火山活動や地殻変動は、ないと思われるが、隕石の落下は、心配じゃ。
 いくつもの場所に、深く埋めれば、良いかも知れんが」

 「月に行けなくなったりして」

 「うん。それが一番の問題かもしれん。
 実際にタイムカプセルのような過去の知識が切実に必要となるのは、未来の人たちの知的水準や技術レベルが現代よりも低下してしまった場合じゃからな。
 逆の場合は、未来の「考古学者」の研究の対象とはなっても、人類復活の切り札としては、使われない。
 なので、タイムカプセルに託す情報は、未来の人々の水準が現代より低下しているという想定で、いくつかのレベルに分けて、保存すべきで、非常に基礎的な知識、技術や工具、動画、写真も保存すべきじゃろうと思うのう」
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人工衛星に託す?

「地球を中心に回転する人工衛星にデータを保存することも考えられるじゃろう」

 「なるほど。それは、面白いわね」


 「小松左京氏のSF「さようならジュピター」にも、確か、データを保存するための「資料保存衛星」という衛星の話があったのでな」

 「規模がデス・スターのようなイメージかしらね。
 とはいっても、高い放射線密度にさらされたりするから、本体やデータの劣化も気になるところね」

 「まあ、現在のところは、地球に置いておいた方がコスト的にも性能的にも安いことは、確かじゃろうがな」
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レスキューセットとしてのタイムカプセル(2010/6/2~6/4 加筆)

「タイムカプセルの目的を考えていくと、単に後世の人に現在の私たちの保っている情報を伝える、という幅広い割に、曖昧なものではなくて、後世の人のために役立つものを残すという意識が必要じゃな」

 「それが、レスキューセットね」


 「そう。我々の今の知識や技術は、おおざっぱに言えば、数千年程度の歴史に支えられている。
 それらは、先に述べたように、人類人口が激減すれば、あっけなく失われるじゃろう」

 「そのときに、取り出して使うというのがレスキューセットとしてのタイムカプセルという訳ね。
 とすると、そのときの知的・技術レベルで読み出せない媒体や理解できないフォーマットでは、意味がないということか」

 「そのとおり。
 江戸時代の技術水準の人達に、FDやCDを渡してもどうしようもないじゃろう。
 逆に、タイムカプセルが開かれたときに、人類が、今よりも繁栄しているならば、開かれたカプセルは、レスキューの意味では、役には立たないが、それは、それで結構なことじゃ」

 「まとめると、タイムカプセルの目的は、「将来の人類の知的・技術水準を復活させるための知識とツールを残すこと」ということね」

 「従って、含めるものは、レベル別に分類した情報や技術資料じゃな。
 レベルをどのように想定するかは、まさに大問題じゃが、小学生、中学生、高校生、大学生、一般技術者、専門技術者、大学講師・教授レベルの7段階程度まで、細分化するとわかりやすいじゃろう」

 「なるほど。確かに、インドの人に、また、「ゼロの発見」をしてもらう必要は無いわね」

 「千年程度遅れても、5分の1~10分の1程度の100~200年程度で、追いつくことができるじゃろう。
 次は、残す内容じゃ。武器や兵器の知識は、残しとうは、ないな」

 「だけど、爆薬の知識なんか、必要不可欠じゃない?」

 「まさに、その点がジレンマじゃ。
 知識や技術は、両刃の刃。このようなタイムカプセルが、悪いものの手に渡ると、大変なことになるじゃろう」

 「それと、小説なんかの人文的な知識は、どうなるのかな」

 「まあ、それは、別の問題じゃろう。
 申し訳ないが、レスキューセットとしては、それらは、必要ないのではないかな?」

 「それよりも、もっと、一般的な工学知識が必要ということね」

 「そうじゃ。
 もっとも、工学的な面だけでなく、漢方薬などに使える植物や動物の利用の方法も役立ちそうじゃの。
 あと、人文的な方面でも、法律などは、必要性が高いかも知れん。
 工業でいえば、たとえば、ネジ1本にしても、ライプニッツの計算機は、後世の手回し計算機と原理的には、遜色がないものじゃったようだが、ネジや歯車の工作精度が低く、十分な精度を保つ製品を量産することができなかったという。
 良品質の製品を、大量生産するには、工作機械の精度や製品の品質を管理する技術が必要だということに気がつくのは、20世紀に入ってからのことじゃ」

 「機械を作る機械が大切ということね。あと、測定器も大事よね」

 「うん。まったく、そのとおり。何かを計る技術は、工業の基礎的な部分であるからな。
 単位も極めて大事じゃな。質量や時間などの単位の中身が違ってしまうと、せっかく残した資料の解釈がずいぶんと変わってしまうじゃろう」

 「しかし、こういった機械をすべて保存するというのも、大変よね」

 「そうじゃ。だから、図面を残すのじゃ」

 「図面が読めなくなっているかも」

 「一部は、ミニチュアを残すという方法も併用すると良いじゃろう。写真や動画も活用できる」
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博物館の役割(2010/6/3~6/4 加筆)

「国立科学博物館などの博物館とタイムカプセルとの関係は、どうなるのかしら?」


 「現在の博物館は、どちらかというと、「展示」ということに力点が置かれている。
 これは、やむを得ない面もあるじゃろう。後世の人に伝えるという目的だけでは、予算を確保することは難しい。
 どうしても、現代の人々の啓蒙に役立つことを考えないと予算が確保できんじゃろう」

 「でも、博物館の物品の保存方法だと、天変地災に必ずしも、十分ではないわね」

 「そのとおり。
 それと、保存されているものは、どれも貴重なものじゃが、文明の「レスキューセット」として、意識されているのではないので、そのまま、それらを流用することは、難しいようにも思う」

 「やっぱり、さっきの「ファンデーション」に出てくるように、タイムカプセルを作成・保存する独立した機関なり団体がないと、できないかも知れないわね」
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レスキュータイムカプセル作成委員会(2010/6/3 加筆)

「その団体を仮に「レスキュータイムカプセル作成委員会」と呼ぶことにしよう」

 「長い名前ね。
さて、その目的は、前出の「将来の人類の知的・技術水準を復活させるための知識とツールを残すこと」だわね」

 「主な活動は、次のようなものじゃろう。

 1.レスキュー対象の文明レベルの想定
 2.レスキュー用として後世に残すべき対象資料の選定(レスキュー対象文明レベル単位に考えて複数で1セットとして用意する)
 3.数百~数千年後でも利用可能な資料の保存方法
 4.タイムカプセルの保存場所とコピー数
 5.保存資料のフォーマット(形式)(3とかぶる部分はあるかも知れない)
 6.保存資料の保守方法と費用の捻出手段」

 「費用は、かなりかかるでしょうね?」
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ミロク・プロジェクト(2010/6/3~6/4 加筆)

「でも、工夫は、あると思うのじゃ。
 たとえば、お釈迦様が亡くなって、最初の5百年(千年ともいう)が「正法」、次の5百年(千年ともいう)が「像法」、それに続く時代が「末法」の世と考えられていたのじゃ。
 だから、平安時代の頃には、そろそろ、末法の世になったと信じられたのじゃ。
 飢饉やいくさなどは、末法の世の姿とも思われたのじゃろう」

 「だから、死んだ後に極楽に行けるように阿弥陀様に願ったりしたのね」

 「そう。阿弥陀如来は、西方浄土の主と考えられていて、観音菩薩、勢至菩薩を従えて、死者を極楽浄土に迎える「浄土来迎図」が描かれるようにもなった」

 「その一方で、地獄に落ちたらどうなるのか、という恐怖からも抜け出せなくて、地蔵信仰が起こったと書かれているわ」

 「地蔵菩薩は、末法の世で、唯一、衆生を救うと信じられていたのじゃな」

 「お釈迦様が亡くなった後、五十六億七千万年後に弥勒菩薩が現れて、すべての衆生を救うまでの間ということね」

 「その永遠とも言える闇の時代を救うのが、お地蔵様、そして、最後に現れる切り札が、弥勒様という信仰じゃ。
 弥勒菩薩が現れたときに自分が忘れられていては困るので、「経筒」にお経を収めて名前を書いて地中に埋めたりしたのじゃな」

 「まるで、タイムカプセルね」

 「そうじゃのう。
 それと同様に、今考えている「レスキュータイムカプセル」は、未来の人々を救うプロジェクトとも考えられる」

 「うん。
 「レスキュータイムカプセル」より、「ミロク・プロジェクト」の方がカッコイイね」

 「ま、56億7千万年(あるいは57億6千万年)後に現れるという仏様を待つよりも、自分たちで、自分たちの子孫を救う手がかりを残そうということじゃな」

 「そういう趣旨での募金や寄付を募るということね。広い意味では、一種の宗教活動にも思えるわね」

 「そのようにとらえることも可能じゃろうが、「マッチ一本火事の元」と、ただ、一心に唱えているだけでは、火災の被害を最小限にとどめられない。
 火災を最小限にするためには、火災報知器、消火器、消火装置、消防署などの消火システムや、消失したときの保障を行う火災保険などの制度を含めた全体像を常に念頭に置いて、積極的に計画、構築していって、初めて、火災から人間を救うことができるのと同様のことに思う」
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終わりにあたって

 今回もご覧いただき、ありがとうございました。では、来月まで、どうか、お元気でお過ごしください。
 今後とも、ご愛読のほど、よろしく、お願いいたします。
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