会員の皆様へ(2008年1月のご挨拶)

どうなっているんだ!年金 パート2

目次

 千両の実、たわわ
 年金報道の謎
 何を管理しようとしたのか?
 国民年金と厚生年金における管理項目の違い(住所)
 氏名の表記問題(漢字とカナ)
 重複のチェックと住基コードの活用
 システム運用上の問題
 システム開発会社の責任
 おまけ 住基コードの活用を広げる
 終わりにあたって

千両の実、たわわ

昨年は、暖かかったせいか、拙宅の千両の実が鈴なりです。
 千両は、万両などとともにお正月の縁起物として扱われていますね。いわゆる「福もの」です。
 お隣のお宅には、うすい黄色の実がなるものもあります。
 そちらもずいぶん、実が付いています。
 この鈴なりの実のように、今年一年、たくさんの良いことが皆様のお宅に訪れますようにと願っております。
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年金報道の謎

2007年6月の今月のご挨拶「どうなっているんだ!年金」で取り上げました「5000万件の不明年金」については、ご承知のように、その後、事態がよりいっそう、深刻化しています。
 これについては、国会の場だけでなく、テレビ等のマスコミでも繰り返し、問題が取り上げられています。
 確かに、社保庁の(役職員の)責任追求は、重要で、大切なことです。
 しかし、(一部の)報道番組を見た限り、隔靴掻痒というか、なぜ、こうなってしまったのか、という点が今ひとつ、明らかにされていないように思われます。
 すなわち、手作業の時代から、人と連携して動作していた(いる)「年金管理システム」(狭義のコンピュータシステムだけでなくもっと広い意味でのシステムを指すものとします)は、どうなっていたのか、システム設計上の問題はなかったのか、システム運用上の問題は何だったのか、というような点が取り上げられていないように思います。

 これらについては、経営コンサルタントの多田正行 氏が日経IT Proの場で「社会保険庁問題を検証する」というタイトルで精力的に論じています。
 ご興味のある方は、ぜひ、ご覧になって下さい。
 以下では、同欄でも取り上げられています、総務省の行政評価局が2007/10/31付けで公表した「年金記録問題検証委員会報告について」という長文の報告書の中の「 第5 年金記録管理システムの調査結果」(以下「報告書」という。)を私が斜め読みした結果、特に重大だと思われる「システム設計上の問題点」について、記載してみたいと思います。
 (報告書URL : http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/071031_3.html)
 なお、推測や誤解に基づくコメントもあろうかと思いますが、どうか、お許し下さい。
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何を管理しようとしたのか?

報告書によると年金システムは、幾多の変遷を経て、つぎはぎだらけであると称されています。
 確かにそのとおりであります。
 では、その複雑さが今回の問題を引き起こしたのでしょうか?

 しかし、同じように手作業から始まり現在のコンピュータシステムに至るまで多くの変遷を経てきたと考えられる、銀行の預金管理や保険会社の保険管理で今回のような問題は、生じていません。
 単に複雑であったからとか、多くのシステムの改変を経過したからというのは、必ずしも、当を得ていないようです。

 さて、銀行預金のシステムでは、口座毎の管理が中心です。
 より具体的には、口座の開設、入出金、残高、利息の計算、口座の解約というような点が主な管理の中心課題でしょう。
 レコードのキーとなるのは、「口座番号」です。
 もちろん、現在では、同一人の預金口座を名寄せして管理もしています。
 年金では、どうだったでしょうか。
 国民年金では、被保険者個人が単位とあります。(報告書 153pの注)。
 厚生年金では、記号番号が基本的な管理の対象でした。
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国民年金と厚生年金における管理項目の違い(住所)

国民年金では、昭和36年4月から紙台帳による管理を行っていました。(192p)。
 これによると資格取得届、資格喪失届の提出を受け、市町村が「被保険者名簿」で管理していたのは、「記号番号、氏名、性別、生年月日、住所、住所コード、資格取得年月日、資格喪失年月日、保険料に関する記録」となっています。

 一方、187pによると、厚生年金では、昭和17年6月より、社会保険事務所が「被保険者名簿」で管理していた項目は、「記号番号、氏名(漢字)、性別、生年月日、事業主名又は事業所の名称、資格取得年月日、資格喪失年月日、資格喪失原因、標準報酬月額」となっています。

 両者を比較して、まず、気のつく点は、国民年金には、本人の住所があるのに対して、厚生年金では、本人の住所がない、と言う点です。 
 すなわち、厚生年金の場合は、本人と社会保険事務所との間に会社が入っているため、不要と考えられたのか、どうか。

 厚生年金では、住所がないので、社会保険事務所から、本人に直接、連絡を取りようがありません。
 報告書の158pでも、「厚生年金保険を、オンライン化前までは、年金手帳記号番号、生年月日及び事業所記録を中心に管理し、被保険者の住所は、管理事項とされてこなかった。(中略) 平成8年より住所を収録することとした。住所については、個人特定の鍵となる事項の一つであり、個人への連絡情報としてもっとも重要な事項であることを踏まえれば、カナ氏名に併せて検討すべきであったと考える」とその欠陥を指摘しています。
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氏名の表記問題(漢字とカナ)

国民年金と厚生年金とも、紙台帳の時代は、漢字で氏名を表記していました。
 なお、氏名の読み(フリガナ)については、国民年金は、昭和40年より届出書に記載されるようになりましたが、厚生年金では、昭和54年までフリガナの記載項目がなかったとのことです。(153p)

 さて、国民年金では、昭和40年より、カナによる氏名を磁気テープに記録するようになりました。(181p)。
 (上述のように届け出の際に氏名のふりがなの表記が追加されたのはこのためと考えられる)

 一方、厚生年金では、昭和32年より、パンチカードによりデータを収録する管理が始まり、通常使用される漢字7560字に4桁の数字を当てはめて保存するようになりました。(214p)。
 ところが、国民年金が昭和40年より、カナ氏名を記録するようになったため、厚生年金でも昭和54年度よりカナ氏名の収録を順次開始しました。
 当時の現資格者や新規資格者については、算定届や資格取得届を元にフリガナを振りましたが、資格喪失者については、依拠すべき資料がなかったため、数字による漢字コードを元にカナを振るようなプログラムを開発しました。(214p)。
 このため、厚生年金の場合には、カナ氏名と本来の読み仮名との間に差異が生じたものが発生しました。
 このプログラムにより、ふりがなを振った氏名については、「不備コード」なるフラグがデータに付与されました。(216p)。
 ただし、東京都については、昭和40年5月より数字符号化した漢字氏名とカナ氏名を記録、沖縄県についても昭和47年5月より同様の措置を取っています。(214p)。

 ところで、報告書を読む限り、厚生年金の「カナ氏名問題」については、一般に報道で言われているように、すべての対象者について、プログラムにより機械的に、あるいは本人確認なしに職員が辞書等を参照して氏名にふりがなが振ったのではないと読み取れます。
 なお、私が報告書を見た限りでは、厚生年金で漢字コードをカナ氏名に置き換えた際、元の漢字コードは、保持したのか、していなかったのかが不明です。

 ところで、国民年金については、当初、フリガナを持たずにいたのに、昭和40年よりカナ氏名の収録を開始とあるだけで、現資格者のフリガナは、どのように振ったのかという記載が私には、見つけられませんでした。
 このように氏名の表記については、国民年金が、漢字→かな→併用(現在)。厚生年金が漢字→漢字の数字コード→かな→併用(現在)、というように推移しています。
 厚生年金については、せっかく数字コード化した漢字情報をもちながら、なぜ、カナ(のみ)に変換してしまったという問題があります。
 そして、その際、資格喪失者に限ると報告書では記載されているものの、正確なフリガナ情報を持たずに処理したという大きな問題が発生しました。

 報告者では、厚生年金のカナ氏名について、「カナ氏名の届け出を昭和54年まで義務づけなかった。これは、事業主の負担を考慮したという背景があったとしても、個人特定の鍵となるべき氏名データを軽視してきたと言わざるを得ず、カナ氏名の収録は国民年金のカナ氏名の収録に合わせて行うことができたにもかかわらずそれを怠っていたものと考えられる」と厳しく指摘しています。(153p)。
 結論として、(平成9年の基礎年金番号の導入までは)氏名、性別、生年月日により個人を特定するほかはないにもかかわらず、年金制度により、氏名データの扱いがばらばらであったこと、そして、どうもあまり重視されていなかったように思える点が極めて不自然で不思議な点です。
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重複のチェックと住基コードの活用

報告書では、あまり触れていないのですが、根本的な問題は、個人をどのように特定するのか、という点をおろそかにしてきた「つけ」が氏名、性別、生年月日という3項目の一致による「名寄せ」という非近代的な手法を必要としている所以です。
 年金制度の創設時から、打って変わり、国民の住所や勤務先も煩雑に変動する時代になっています。
 どこに住んでも、どこの会社に勤務しても、継続して個人が特定できることが必要です。
 申請している人が本当の本人かどうか、その認証が必要な時代になっていると思われます。

 この点からは、国民年金にしても厚生年金にしても、新規資格取得時にすでに他の資格を持っているのか、否か、というチェックがどうなっていたのか、という点は、報告書に記載されていないようです。
 国民年金については他地区からの転入時には、かならず、転出した地区へ照会するという手段はあると思いますが。
 ところで、平成9年に導入された基礎年金番号は、同番号をキーとして個人を特定できるのですが、新規資格取得時に年金手帳の提出がない場合などでは、公的な第3者の証明書を提出させないと、重複して取得してしまうという可能性があるように思われます。
 せっかく、住民基本台帳コードという公的な番号が定められているのですから、基礎年金番号と住基コードをひも付けして(コンピュータ上のデータに併せて記録する)、新規資格取得時に必ず、住基コードを記載させて、重複をチェックするようにしなければならないのではないでしょうか。
 あるいは、いっそのこと、基礎年金番号=住基コードとしてしまったら良いのではないでしょうか。
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システム運用上の問題

国民年金や厚生年金には、システム設計上の問題以外に、これは、報道等でも繰り返し取り上げられましたが、システム運用上の問題も多くありました。
 この点は、報告書でも指摘されています。
 まずは、データ入力時の誤りとチェック体制。これは、データチェックの方法が両制度によって異なっていたという問題もあります。
 次にデータの処理の統計的な記録や管理がなされなかったという点。どの程度の正確さでデータ処理がなされていたのか、不明のまま、データ量だけが増大していったように思われます。

 ここは、データ処理結果が「銀行通帳」という形で、利用者に開示されている銀行預金などのシステムに学ぶべきであったと思われます。
 そのようになっていれば、万一、処理の誤りがあったとしても利用者からフィードバックされ、少なくとも今回のような事態は避けられていたでしょう。
 いずれにしても、通常のシステム運用時にあまり訂正されることなく蓄積されていった誤りが、更にシステム変更時にも訂正されることなく、むしろ、増大し、いわば、誤りが雪だるま式にふくれあがったといえるのではないでしょうか。
 でなければ、不明年金 5000万件などという事態は、起こそうにも起こせないのではないか。
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システム開発会社の責任

実際のシステム開発は、社保庁から委託された業者により行われたわけですが、上述のシステム設計上の問題や運用上の問題について、社保庁の担当者よりも当然、熟知していた点が多かったと推定されます。
 これらについては、報告書では、ほとんど触れられていません。
 今回の総務省の調査には、強制的な権限がないため、不可思議な「氏名のカナ変換システム」一つ取り上げても、開発した会社や社保庁に一切、資料がなかったということのみを記載しています。
 もっと、システム開発を受託した会社の責任は、追求されるべきでしょう。
 そのためにも、システム設計などに関する会社側の資料の開示を求める必要があります。

おまけ 住基コードの活用を広げる

銀行預金では、新規口座開設時に本人確認書類の提出が求められます。
 これを住基カードに一本化することができれば、不正ななりすましの防止等に効果があるだけでなく、名寄せ処理の効率化、正確化に貢献すると思われます。
 住基コードの活用拡大が望まれるところです。
 このように書くと「プライバシーの保護」やら「国民背番号制」という言わば感情的な問題が提起されるのですが、コンピュータによる処理でコード化は避けることができず、プライバシー保護の観点からは、住基コードの活用拡大がどのような不利益(抽象的ではなく具体的な不利益)を生むのかという点について、もっと冷静な議論が望まれるところでしょう。
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終わりにあたって

 今回もご覧いただき、ありがとうございました。
 寒い冬になりました。お元気でご活躍されることを祈っております。
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