会員の皆様へ(2007年2月のご挨拶)

インターネット時代の「知的生産の技術」

目次

 「知子の情報」と鎌倉の人形山
 「知的生産の技術」
 ファイリング
 パソピアでデータベース管理ソフトを作る
 知子の情報にデータを移行する
 知子ファイルを検索ソフトの検索対象にするためにPDFファイルに変換する
 ファイルの整理術
 インターネット時代の知的生産の技術
 湯川秀樹博士と創造性研究
 Googleを超えて
 終わりにあたって

「知子の情報」と鎌倉の人形山

「知子の情報」というソフトがあります。MS-DOSの時代にテキスト型のデータベースとして「テグレット技術開発」から発売されました。
 当時のデータベースは、固定長・固定項目のカード型のデータベースが中心で、一般のテキスト文書にキーワードを付けて検索したり、全文を特定のキーワードで検索したりできる機能を持つものがありませんでした。
 下図は、「知子の情報」とそれを使って「微分方程式」というキーワードで検索して見つかったデータの標題一覧画面。



 「知子の情報」は、このような可変長のテキスト文書を検索するためのデータベースソフトとして誕生したのです。
 テグレット技術開発は、「直子の代筆」というソフトで有名になりましたが、この「知子の情報」もかなり人気があったように思います。
 DOS以降、Windowsでも最新バージョン9が動作します。
 ただ、当方では、現在、ジャストシステムの「Concept Search」やVillageCenterの「サーチクロス」を利用しており、残念ながら「知子の情報」の出番は、少なくなりました。
 また、読者の方の中には、Google社より提供される無償ソフトの「Google Desktop Search」を利用されている方も多いと思います。
 これらの検索ソフトは、プレーンなテキストだけでなくWord、Excelやその他のファイル形式に対応しており、より利便性が高くなっています。

 さて、私の「知子の情報」の最初のデータとして登録されているのが、標題の「鎌倉の人形山」という抜き書きです。
 1981年1月26日の日付があります。
 「保育社」刊行の「鎌倉歴史散歩」という本の一節に
 「・・大正の初めに貴族院議長の村田保氏(水産翁)が(鎌倉の祇園山)一帯を安養院という寺から借りて別荘とし、中国故事に由来する人物、鬼、大蛇、骸骨、女性人形などの怪奇な人形を山一面に据えて園遊会を催したので、この祇園山を人形山と呼ぶようになった・・」という記事を書き抜いています。
 なお、この本では、これらの人形は、その後、散逸したという記載があります。

 私の当時の疑問は、村田氏は、どのような理由で人形を作ったのか、人形は誰に作らせたのか、残っている人形はないのか、人形を見たという人は現存していないのか?というようなところにあったように思います。
 私がこのようなデータベースを作りはじめた理由は、明らかに、次に述べるところの梅棹忠夫氏の「知的生産の技術」という本に啓発されたことは、間違いありません。
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「知的生産の技術」

岩波新書から梅棹忠夫氏の「知的生産の技術」の初版が発売されたのは、1969年7月でした。
 私がこの本を読んだのは、それから約10年後の1980年頃だったでしょう。
 すでに就職していて、それなりに生活のリズムが確立できてからのように思います。
 どのようなきっかけでこの本を入手したのかは、不明ですが、自分でも何かオリジナリティのある仕事をしてみたいとという気持ちがあったのでしょう。



 この「知的生産の技術」の冒頭に「学校で知識は教えるが、知識を得たり、考えをまとめたりする方法(技術)は、教えない」という趣旨の件があります。
 そして、この方法とは、高尚な方法論ではなくて、もっと、素朴な、ノートやメモの取り方だとか、データの整理の仕方など、より実際的な方法のことだとも述べています。
 このことは、当時、極めて新鮮な指摘でしたが、残念ながら現在でも状況は、大きくは、変わっていない気がします。
 この背景には、我が国では、知識を上に置き、それに比して技術を軽視する風潮があるためではないかとも梅棹氏が述べていたように記憶しています。

 今、学校教育の問題がやかましく取り上げられていますが、どんな内容をどの程度教えるかという点に焦点が集中してしまい、どのように勉強するのが効率的かなどという勉強法(技術の問題)は、依然として、本人や家庭や学習塾に任されているように思えます。
 特に、現代では、何も大学や研究所の研究者でなくても、一般のサラリーマンでも、様々な「知的生産」を行っていますので、ますます、このような技術の重要性は高まっているにも関わらずです。
 梅棹氏の「知的生産の技術」のインパクトは、大きく、その後、「知的生産の技術」研究会が発足したり、「わたしの知的生産の技術」などの本が出たりなど、さまざまな試みや方法が公開されました。また、時間や資料の整理法などの本も相次いで出版されるようになりました。
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ファイリング

私がこの本から得たデータの整理法は、様々なデータをフォルダ(紙ばさみ)に整理し、ファイリングキャビネットに収納するという方法でした。
 梅棹氏は、本の中でこの方法に巡り会ったきっかけを述べています。
それは、ある外国の人とのやりとりの中で、その外国人が梅棹氏とのやりとりの記録をすべて一つの紙ばさみに入れており、その紙ばさみが垂直式のファイリングキャビネットに整然と整理されていることを知ったことによるものでした。
 この垂直式のファイリングというものは、すでに19世紀には、西洋に存在していたようですが、同氏によると日本に入ってきたのは、ずいぶんと後のことのようです。

 私もその方法をまねて、ファイリングキャビネットを購入して整理を始めました。
 フォルダの大きさは、A4サイズとすると、ほとんどの雑誌の切り抜きや様々な手紙、記録書類は、そのままフォルダに収納できます。
 このようなファイリングでは、どのような基準でフォルダを分けるか、ということが常に問題になります。
 同氏によれば、最初は、比較的大きな分類、○○関係というような分け方にしてみたが、これでは、だめで、できるだけ小分けに(一つ一つの項目)までに分割しないと意味がないことに気がついた、と書かれています。

 同氏が最初にこの本を書かれた時代は、まだ、ワープロもなく、パソコンもないという時代であり、「かな漢字変換」という方法も発明されていない時代でしたので、
 本では、「カナモジ・タイプライター」や「ひらがな・タイプライター」に関する記事があります。
 このあたりは、現在では、よほど、便利になっているわけです。
 私がファイリングを始めたときは、パソコンも8ビットですが、東芝の「パソピア」があり、それを使えば、資料の名称や内容の索引は、パソコンに任せられると考えて、資料には、通し番号を振るだけとして、キャビネットに1から順番に整理するようにしました。
 こうして収納し始めたキャビネットの最初に登録したのが、前述の「鎌倉の人形山」の抜き書きだったのです。
 下図は、その1つ目のフォルダ。「鎌倉の人形山」に関する手書きのメモが見える。



 上図のようなキャビネットに保管している。
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パソピアでデータベース管理ソフトを作る

1980年代前半は、「知子の情報」などのデータベース管理ソフトなど存在しない時代でしたので、パソピアでBasicのプログラムを書きました。
 それらのプログラムやデータフォーマットの詳細は、残っておりませんが、印刷した結果は、残っていました。
 下図は、Key LIST。

 下図は、データリスト。1件目に「鎌倉の人形山」の個所があることが分かる。

 これを見るとKey Listとデータの一覧表とがあります。資料番号は、数字の1からとして、その一つ一つに標題など複数の項目とキーワードを持たせていました。
 パソピアの操作画面が、どのようなものであったか、確認したいのですが、残念ながら、写真がありませんでした。
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知子の情報にデータを移行する

こうして、データ件数が1000を超える頃にようやくMS-DOSで動作する「知子の情報」が発売され、それを機にこれらのデータを移し替え、現在は、「知子の情報」の知子ファイルとして保存されています。知子では、索引による検索だけではなく、全文検索にも対応していて、現在の検索ソフトに一歩、近づいていました。
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知子ファイルを検索ソフトの検索対象にするためにPDFファイルに変換する

先に述べましたように「知子の情報」よりもジャストシステムの「Concept Search」やVillageCenterの「サーチクロス」などでこれらのデータを検索させるためには、知子ファイルのままでは、できず、不便です。
 仕方がないので、便宜的な方法としてPDFファイルに変換しました。
 1000を超えるデータを一つ一つPDFファイルにするのは、あまりに困難です。
 そこで、100単位でまとめて一つのファイルに変換して保存しました。こうするとこれらの検索ソフトで検索できるようになります。
 しかし、このような方法は、一時しのぎです。
 このところ、ファイリング作業が停滞気味なのでこれですんでいるわけです。
 今後は、単なるテキストまたは一太郎やワードのファイルに標題やキーワードを記載して適当なフォルダに保存するだけでよいのかとも思っています。
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ファイルの整理術

このようにパソコンがオフィスや家庭に普及してくると紙の資料だけでなくコンピュータ上のファイルを整理・収納する技術が求められるようになりました。
 これらは、会社のデータサーバーなどのレベルではともかく、個人のパソコンや家庭のパソコンでは、個人間のレベルの差がものすごく開いてしまっている分野です。
 さまざまな雑誌や書籍にパソコン内のファイルの整理についての記事は、あります。
 しかし、そのような記事に見たり読んだりするのは、ある程度のスキルがある方か、あるいは、ファイルの整理に関心がある方なので、そもそも、整理に関心が薄い人は、このような記事に関心を持ちません。

 そして、ファイルの整理に関心が薄い方の中に、極めて勤勉な方がいらっしゃるのです。
 そのような方は、マイドキュメントやデスクトップに何百というファイルを直に保存してしまっているため、とうとう、それではどうにもならなくなってからようやく、誰かに助けを求めてくるのです。
 何百というファイルを複数のフォルダを新規に作成して、移動していくほど困難な作業はありません。
 整理の方法は、教えることができても、実際の作業は、ご当人以外には(場合によっては当人でもいちいち開かないと)、不可能なことです。
 皮肉にも、それほど勤勉でない方は、数十単位のファイルを保存した段階で、もっと便利な整理法はないかと尋ねてくるため、かえって、そこまで面倒なことにならないことが多いのです。

 当教室でもこのようなファイルやフォルダの整理術を教えなくてはならない、とは考えているのですが、これらは、Windowsの基礎知識のようなコースに入れているため、受講する方が少ないのです。
 そのため、あまりに目に余るケースについては、説明しますが、それもノートパソコンを持ち込んだ方向けに事実上、限られてしまうのが現実です。
 一方、最近、インターネットの検索などを通じて、Googleなどのキーワード検索になれてきている方も増えており、前述のソフトやGoogle Desktopなどの検索ソフトを使えば、自分のパソコン内のデータを上手に見つけられるようには、なりつつはあります。
 しかし、だからといってファイルを適当に保存してもよいとはとても言えません。

 その理由は、キーワードによる検索では、すべてを網羅して検索できなかったり、不要なファイルが見つかったりしますし、データのバックアップの問題もあります。
 ハードディスクの容量の巨大化のため、ディスクの損傷によりディスク内のデータを失ったときのダメージは、非常に大きくなりました。
 また、パソコンのOSは、昔と異なりフリーズしにくくなりましたが、それがかえってパソコンは、壊れないものという誤った考えを初心者に植え付けてしまう原因にもなっています。

 従いまして、これからのファイルの整理術には、データのバックアップやデータを安全に廃棄する技術も含めなくてはならないと考えます。
 すなわち、今後、私たちは、データを収集し、パソコンなどを使ってデータを整理・作成して、それらを保存し、また、不要なデータを廃棄し、そして必要なデータは、定期的にバックアップするという、データの一連のライフサイクルを管理する技術を習得する必要があるでしょう。
 特に、今後は、音楽やビデオなどマルチメディアの大容量データもどんどん、増えていきますので、これらのことは、よりいっそう、重要になってきます。
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インターネット時代の知的生産の技術

一昔前までは、何か資料を作ろうとした場合、図書館などに行って関連の書籍を入手したり、詳しい人にインタビューをしたりして、それらのメモを見ながら、ワープロなりパソコンなりに向かって資料の作成にいそしんだものです。
 日本国内で入手できないデータがあれば、海外へ手紙などで請求したり、海外調査を行ったすることもありました。
 現在では、インターネットを利用して、かなりのデータを収集することが可能になりました。
 そのため、ややもするとインターネット上の情報を無批判にあるいは無意識に引用し、プレゼン用ソフトに貼り付けただけで、見た目には、それなりの資料ができてしまうことがあります。うっかりするとそれで本人や周りも満足してしまいます。
 すなわち、インターネット時代の知的生産の技術では、「考える」ことが、今まで以上に大切となっていて、そのための「(新しい視点で)考える」技術がキーポイントになると思うのです。
 「考える」ことに技術なんてあるのかしら、と思う方もいらっしゃるかも知れません。そのことについて下記で触れてみたいと思います。
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湯川秀樹博士と創造性研究

湯川秀樹博士は、1907年1月23日 に生まれられたので、今年でちょうど生誕百年になります。
 日本で最初にノーベル賞を受賞した理論物理学者として広く知られていますが、博士が後年、「創造性」の研究にも多大な時間を割かれたことは、案外知られていません。
 そして、「天才の世界」(小学館 : 1982年)の中で、天才と呼ばれた人は、どのように創造性を発揮できたのか、そして、一般の我々にもヒントとなる普遍的な原理があるのか、という点を追求されました。
 この本は、創造性研究者である市川亀久彌氏(「等価変換法」の開発者)との対談という形式をとっていて、比較的、読みやすいものとなっています。

 このように創造性(新しい考え方を示すこと)を一般人が発揮するために、すでにいくつもの技術が開発されています。
 よく知られている例では、「チェックリスト法」があります。
 これは、あらかじめ、一般的なチェックリスト( ほかに使い道はないか、 ほかからアイディアが借りられないか、 変えてみたらどうか、 大きくしてみたらどうか、小さくしてみたらどうか、 ほかのものでは代用できないか、 入れ替えてみたらどうか、 逆にしてみたらどうか、 組み合わせてみたらどうか)を使って、いわば、強制的に思考を巡らせてみる方法です。

 これ以外にも「KJ 法」、「強制関連法」、「焦点法」、「アナロジー技法」、「等価変換法」などがあるようです。
 これらは、たとえば、「生涯職業能力開発促進センター」のホームページに解説があります。http://www.ab-garden.ehdo.go.jp/index.html

 ただ、このような技術については、現在の学校教育の中では、とても触れることができないでしょう。
 また、企業でも大企業か、あるいは、中小企業では、経営者の特別な理解がないとこのような研修を受けることは、無理かも知れません。
 そして、もっともいけないことは、私たち自身、なんとなく、このような「技術」で創造的なことができるわけがない、という思いこんでいることです。
 まあ、もちろん、創造性といっても様々なレベルはあります。
 たとえば、上は、ノーベル賞級のものから、下は、日常的な文章に至るまで、多くのレベルがあります。
 ですので、一般の我々は、縁がないなどとは考えずに、いくつかの技術を学んでみることも必要かと思います。
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Googleを超えて

Googleによる検索は、インターネットの検索を一変させました。しかし、Googleだけが世界ではありません。
 たとえば、「失敗知識データベース」というものがあります。科学技術振興機構(http://shippai.jst.go.jp/)が無償で提供しているものですが、過去の様々な事故などの失敗事例を集積し、分析したデータベースです。
 今後は、このように情報を分析・整理したデータベースを構築していくことが求められているのではないでしょうか?

 なお、韓国でGoogleがふるわない理由として、日本の「教えてgoo!」などのように、ハングルでの問答型の知識データベースが大量に作られており、それを利用した方が利便性が高いということもあるようです。ただ、これらのデータベースへのGoogleなどのロボット型検索エンジンの侵入を拒否するというポリシーがとられていることも一因であるという指摘もあります。この項は、http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070116/258796/を参考にしました。)
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終わりにあたって

 今回もご覧いただき、ありがとうございました。
 暖冬とはいえ、まだまだ、寒い日が続きます。お元気でお過ごしください。
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