更新日:2002/3/1 2015/9/4修正
私が最初に就職した会社は、「地籍測量」の結果作成された「地籍図」の複写をしたり面積を計算する測量関係の会社でした。
「地籍調査」というのは、「戸籍」と同様に土地の所有者、地番、面積等を明確にすることにより、国土のより効率的な活用を図るという「国土調査法」に基づき実施されている調査です。最終的には、その成果物は、法務局に収められます。
地籍調査は、大都市では、あまりなじみがないかも知れませんが、地方では、よく知られています。
地籍調査の結果、作成される地図が「地籍図」というものです。縮尺により1/500、1/1000などがあります。
当時の地籍図は、変形を防ぐためにケント紙の裏にアルミを貼り付けた特別の用紙に作成されていました。
会社では、この地籍図を市町村から預かり、その複写を作成するとともに各土地(筆という)の面積を測定します。
複写は、市町村において日常の作業用に使用されるものです。原本は、厳重に保管されます。
図面上の面積の測定は、当時としては、珍しく座標法というデジタル方式で行われていました。
各筆の土地は、測量の結果、多角形として描かれています。多角形の面積については、公式があります。
学校では、あまり見かけないものですので、ここでは、まず、それをご説明しましょう。
後々の便宜のために多角形の頂点に番号を付けましょう。
番号は、任意の頂点を起点として、時計回りに1,2,3と付けていきます。
一般の頂点をP(i)と書きましょう。
適当な直角座標系を導入したときにP(i)の座標値が、X(i)、Y(i)であるとしましょう。
このとき、この多角形の面積は、(1/2)Σ(X(i+1)Y(i)-X(i)Y(i+1))となります。
なお、Σは、i=1~n(nは、多角形の頂点数)について、和を求めます。
この式は、台形の面積公式、(1/2)Σ(X(i+1)-X(i))(Y(i)+Y(i+1))から導くことができます。
ここで、第1項は、台形の高さ、第2項は、上底+下底を表します。
この式を変形すると前出の式を導くことができます。計算の手間からいえば、後者の式の方が簡単ですが、
前者の式では、次のようにたすきがけ方式で計算ができるので、電卓等で計算する場合は、よく使われました。
例えば、n=3の場合は、次のようにします。
Y(1) | X(1) |
Y(2) | X(2) |
Y(3) | X(3) |
Y(1) | X(1) |
まず、電卓のメモリーをクリアーします。
次に上記でベージュ色のY(1)とX(2)を掛けてM+します。
M+は、メモリーに加える操作です。
次に薄いグリーンのY(2)とX(1)を掛けてM-します。
これを3回繰り返します。
するとメモリーに面積の2倍が求まるという次第です。
これを座標法による面積計算といいます。
多角形の場合も全く方法は、同一です。
この公式を適用する場合、まず、X(i)、Y(i)を知る必要があります。
当時は、地籍図を製図板に固定してルーペで測量点を拡大して、足踏みスイッチを押すと、その点の座標値が「紙テープ」にさん孔されるという装置を使用しました。
測定される数値は、0.1mm単位で測定され、座標原点は、地籍図の左下を(0,0)とします。
私がいた当時は、測定データを計算して地番毎の面積として面積表で納品する場合と、座標値を磁気テープで納品する場合とがありました。
磁気テープで納品した場合は、プロッタに描かせれば、元の図面を復元することもできるわけです。
また、多くの地籍図を結合して、縮小した集成図といった商品も作りました。
このように座標には、土地そのものの情報が盛り込まれているので、多彩に活用される素地は、あったのです。
さて、そんなある日、私たちの会社にこんな注文がありました。確か、国土庁からの注文だったかと思います。
地籍図ではありませんが、ある地図を元にそれぞれの面積と同時に重心位置を測定して欲しいという注文だったのです。
「重心」というのは、図形が円や長方形であれば、中心ですが、一般の多角形については、どうか。そんな公式は、見たことがありません。
面積計算等を委託していた計算機会社からどうやって求めたらよいかという、質問が来ました。
最初に私が考えたのは、台形公式から計算する方法でした。
台形の重心が分かれば、多角形の重心は、Σ(台形の面積×台形の重心)を多角形の面積で割ることにより求まります。
結果として、GX=(1/6S)Σ(X(i)+X(i+1))(Y(i)X(i+1)-X(i)Y(i+1))となります。
ここで、GXは、重心のX座標、Sは、多角形の面積です。GYも同様に求まります。
この式により計算した図形の重心位置を例えば、鉛筆の先のようなとがったもので支えると見事に図形は、空間で水平になります。
確かに重心位置は、計算できたのでした。
これで、目的は、達したのですが、当時、私は、常に一般化できないか、と考える習慣をつけていたので、いろいろ、考えた末に次のようなことを思いつきました。
まず、面積公式ですが、S=∬dxdyと書けます。∫は、積分記号です。
前記の式は、面積分と呼ばれる二重積分です。二重積分を単積分に変換する公式があります。
ベクトル解析の方面で「ストークスの公式」として知られているものです。
ストークスの公式は、面積分を線積分に変換します。これを応用すると次のように一般化することができます。
∬(Xのm乗)(Yのn乗)dxdy=(1/(m+n+2))∫((Xのm乗)(Yのn+1乗)dx-(Xのm+1乗)(Yのn乗)dy)※
上記で右辺の積分は、線積分として考えます。積分の向きは、時計回りに取ります。
このように一般化すると、重心の場合、例えば、Xの重心は、m=1、n=0の場合となります。
ここに至って、初めて、私は、面積公式を完全に理解できたように感じました。
では、今月は、ここまで。
皆様、お元気でお過ごし下さい。また、来月、お会いしましょう。
※ 積分記号の前の係数は、1/(m+n+1)ではなくて、1/(m+n+2)でした。2015/9/4 に修正しました。
※ 面積、体積、重心等に関するサイト内リンクです。(2018/4/18、2019/9/3 追加)
『3次元空間における平面上の多角形の面積』(DERIVE de ドライブ:第39回)
『多面体の体積公式』(DERIVE de ドライブ:第61回)
『多角形及び多面体の重心と高次のモーメント(1)』(DERIVE de ドライブ:第75回)
多角形の面積と重心を求めるExcelブックをダウンロードできます。
『多角形及び多面体の重心と高次のモーメント(2)』(DERIVE de ドライブ:第76回)
多面体の体積と重心を求めるExcelブックをダウンロードできます。
『多角形及び多面体の重心と高次のモーメント(3)』(DERIVE de ドライブ:第77回)
慣性モーメント、慣性乗積について、解説しています。