2002年2月のご挨拶

更新日:2002/2/1,2016/9/21

 私の本棚

私の本棚

  岩弓枝さんの「御宿かわせみ」シリーズの新作「初春弁才船」が出ました。
 弁才船というのは、江戸時代に物資を運ぶために使用された船のことで、樽廻船とも言いました。
 詳しくは、
 「江戸時代後期になると経済性にすぐれ、帆走性能の良い弁才船が全国的に使用されたが日本海方面では旧式の北国船の長所を取り入れた弁才船が普及していた。これを北前型弁才船と呼ぶ。当時の和船に共通する特徴として、積載量を増やすため完全な上甲板をもたなかったことが挙げられる。これによって、一度の航海で莫大な利益を上げることが可能であった」ということです。「 」内は、下記ページから引用いたしました。
 (http://www.mmex.or.jp/wnn-c/bakumatu/akinai/akinai.htm

  ご存じでない方のために簡単にご紹介すると「御宿かわせみ」シリーズは、平岩弓枝さんが昭和48年から書かれている、江戸の深川にある「かわせみ」という船宿を舞台にした捕物帖です。テレビでもNHKをはじめとして何回か放送されています。
  また、何人かのファンの方がインターネット上に楽しいホームページを作っていることでも知られています。
 (https://www.tokyo-pax.com/science.htm)を参照してください。
  私も、文春文庫版の「御宿かわせみ」から愛読していますが、最近は、老眼のため、文庫本では、見づらくなってきて、文藝春秋版に切り替えています。
  かわせみの女主人「るい」と軍艦操練所につとめる夫の「東吾」の2人、かれらを取り巻く脇役たちの魅力が読者を引きつけているのでしょう。
 現代では、照れくさくなってしまうような話題も江戸時代に置き換えると、不思議と自然に胸に落ちてくるようです。
  そこには、町の風景や食べ物など、今では、遠のいてしまった江戸情緒が豊富に感じられます。これも捕物帖ならではの魅力です。

  平岩さんは、代々木八幡神社のお嬢さんで、学校を卒業後、戸川幸夫氏の指導を受け、氏の推薦で長谷川伸氏主宰の「新鷹会」に入り、「鏨(たがね)師」で26歳の時に直木賞を受賞しました。
  それ以降、作家の道を歩き続けられています。当時の新鷹会には、村上元三、山岡荘八、山手樹一郎、戸川幸夫、池波正太郎など、そうそうたる面々が集っていたようです。
 若い人は、しかも女性は、平岩さんお一人であったとのことです。
  昨年の春に発売になった「御宿かわせみ読本」に平岩さんの作家修業時代のことが「かわせみ」の舞台裏などとともに詳しく紹介されています。
 これを拝見すると、どんな偉い作家でも修業時代は、結構な失敗やら勘違いなど、されているものと分かって、微笑ましく思います。

  捕物帖といえば、「半七捕物帳」(岡本綺堂)が我が国では、最初のものとされています。
 その後、「銭形平次捕物控」(野村胡堂)をはじめとして、多くの捕物帖が著されました。
  代表的なところでは、「人形佐七捕物帳」(横溝正史)、「右門捕物帖」(佐々木味津三 )、「柴錬捕物帖」(柴田錬三郎)などがあります。
  また、狭い意味での捕物帖ではありませんが「梅安針供養(仕掛人シリーズ)」、「剣客商売」、(池波正太郎)なども江戸情緒が深く匂って、時代小説と捕物帖の境界を思わせます。

  個人的には、半七捕物帳は、全巻通読しましたが、剣客商売や仕掛け人シリーズなど、未読のものが残っています。
  捕物帖は、ストレス解消には、本当に役立ちます。平岩さんは、かわせみ以外に「はやぶさ新八御用帳」シリーズも快調です。
 最近作は、「はやぶさ新八御用旅」でしたっけ。
  捕物帖以外には、やはり、山村美紗さんの一連の推理小説、特に短編が好きです。
 山村さんは、多くの主人公を作られています。
 「祇園舞妓 小菊」、「女検視官 江夏冬子」、「葬儀屋社長 石原明子」、「キャサリン」など。
  今年のお正月は、ブックワンから未読だった「江夏冬子」、「葬儀屋」シリーズの何作かを取り寄せて読んでみました。
 推理小説に限りませんが、最近は、書店からすぐになくなってしまうものも多く、ブックワンなどを利用すると、その作家の作品で未読のものをまとめて検索できるので非常に便利に感じます。
  山村さんの作品の中でも「女検視官 江夏冬子」シリーズの冬子は、他の作品と比較して、主人公に関する情緒的な情報がありません。
 ある意味で一連の作品群の中でもっともストイックな作風で、私の好きな主人公です。
 よけいな夾雑物なしに作品を楽しみたい方に向いているかもしれません。
  今回、「長崎殺人物語」、「宮崎旅行の殺人」、「寒がりの死体」の3冊を通読しました。
  また、「葬儀屋社長 石原明子」シリーズからは、「華やかな誤算」、「大江山鬼伝説殺人事件」の2冊を楽しみました。
  なお、山村さんの作品は、お嬢さんで女優の山村紅葉さんが整理して、そのホームページでリストを紹介しています。
http://www.m-yamamura.co.jp/

  最後になりましたが、2001/11のこの欄でご紹介した「ボーアとハイゼンベルクの対話劇」の脚本である「コペンハーゲン」(マイケル・フレイン作、小田島恒志訳)も入手しました。
 ブックワンから取り寄せるのに2週間以上かかりました。
  思っていたよりも重層的な構成で、しかも、物理学の用語がこんなにも劇の中に使われたのは、初めてではないかというぐらい頻出します。
  なかなか、刺激的ではありますが、俳優さんは、さぞ大変だったのではないかと感じました。

  以上、最近、私が読んだ本の中から、とりとめもなく選んでご紹介してみました。
  では、今月は、ここまで。
 皆様、お元気でお過ごし下さい。また、来月、お会いしましょう。

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